大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和33年(わ)238号 判決

被告人 福井順一

主文

被告人を懲役壱年に処する。

この裁判確定の日より参年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三十三年五月二十二日施行の衆議院議員総選挙に際し、千葉県第三区から立候補し当選したものであるが、

第一、右選挙に同選挙区より立候補すべく決意し、自己の当選を得る目的をもつて、自己の私設祕書であつて自己のため選挙運動に従事していた市田博に対し、自己のため投票取纒等の選挙運動を依頼し、右立候補の届出前である同年四月十二日頃東京都千代田区霞ヶ関二丁目二番地所在の衆議院第二議員会館三号館三百八号室においてその報酬及び費用として現金五十万円を供与して選挙運動をし、

第二、前記選挙に際し被告人派の公職選挙法違反事件の弁護を依頼されていた弁護士小玉治行と共謀の上、千葉地方検察庁において捜査中の右第一記載の如き自己及び市田博に係る公職選挙法違反被疑事実を隠蔽するため、同年六月二十九日から同年七月三日に至る間、東京都港区赤坂新町所在料亭坂口及び同区赤坂福吉町二番地所在割烹旅館真珠荘等において、同都中央区銀座西五丁目一番地所在近代興業株式会社経理部長小原茂彦に対し、前記五十万円は同人が同年四月十二日頃同会社において前記市田に対し直接個人献金として手交したものである旨の虚偽の事実を記載した上申書を作成して同庁検察官に提出すべき旨慫慂説得し、なお、右五十万円の出所に関する取調べに備え、偶々小原が同年三月五日同栄信用金庫日本橋支店より五十万円の払戻を受けた事実のあることをこれに利用しようとしたが、前記金員授受の日時との間の期間が長過ぎるのに気付き、これが辻褄を合せるため、前記会社総務部金庫内に殊更に小原私有の貴重品を入れた手提金庫を入れ置き、前記五十万円は、前記市田に手交する迄その手提金庫中に保管されていたもののように作為すべき旨等指示して強いてこれ等を承諾させた上、右小原をして、

一、同年七月二日頃前記会社において、予ねて社印箱代用として使用し経理部において保管中の手提金庫一個内より社印等を取り出し、同人所有の株券保険証書等と入れ換えさせた上、これを総務部金庫内に蔵置させ、恰も前記の現金五十万円が同所に保管してあつたもののように装置させ、もつて前記被疑事件の証憑の偽造を教唆し、

二、同年七月四日同会社において前記五十万円は小原茂彦が直接市田博に個人献金した旨の虚偽の事実を記載した上申書を作成させ、同日これを弁護士織戸峯次を介して同検察庁検察官に提出させ、もつて右被疑事件の証憑の偽造及び偽造証憑の使用を教唆し、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示所為中第一の立候補届出前に選挙運動した点は、公職選挙法第二百三十九条第一号第百二十九条罰金等臨時措置法第二条第一項に、金銭供与の点は公職選挙法第二百二十一条第三項第一項第一号罰金等臨時措置法第二条第一項に各該当し、右は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段第十条により重い後者の罪の刑に従い、所定刑中懲役刑を選択し、第二の一、二の証憑の偽造、偽造証憑の使用の各教唆の点は、それぞれ刑法第百四条第六十一条第一項第六十条罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号に該当するところ、第二の一の証憑の偽造教唆罪については所定刑中懲役刑を選択し、第二の二の証憑の偽造教唆と偽造証憑使用の教唆とは互に手段結果の関係があるから、刑法第五十四条第一項後段第十条により犯情の重いと認める後者の罪の刑に従い、所定刑中懲役刑を選択し、右第一第二の一、二の各罪は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文第十条により重い第一の罪につき選択した懲役刑に法定の加重した刑期の範囲内で被告人を懲役壱年に処し、犯罪の情状により刑の執行を猶予するのが相当であると考えるから、刑法第二十五条第一項に則りこの裁判確定の日より参年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部被告人に負担させることにする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石井謹吾 丸山武夫 八木下巽)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例